コメ○ 神隠し〜上巻〜

「ふう…」
僕はティーカップを持った手を置いて窓の外を眺めた。ポルターガイスト現象を解決してからもう10日になる。
「退屈だ…」
つい、声に出してしまう。下宿の女主人がこっちを向いてくるが、すぐ仕事に戻ってしまった。いつものことだから気にもとめないのだろう。
「ふう…」
また、ため息が出る。何か面白い謎はないものだろうか…
その時、謎に飢えた目は通りをこちらに向かって歩いてくる人を見つけた。レス警部が難しい顔で足早に歩いている。
しめた。こういう時は決まって、警察じゃ解けない謎を持っているはずだ。
「すみませんが玄関のカギを開けておいてくれませんか。これから警部がお出ましのようですからね。」
女主人がカギを開ける音が聞こえたと同時にチャイムが鳴った。
さて、どんな謎を持ってきてくれたのかな?
コンコン
気付けば警部が階段を登り部屋の前まできていた。
「どうぞ」
「すまないね、急に押しかけて。実は…」
「わかっています、警部。神隠しですね、面白そうだ。お引き受けしま…」
「ち、ちょっと待ってくれ。私はまだ神隠しなんて一言も言っていないのだが…」
ああ、また説明を飛ばしてしまっていた。僕の悪いくせだ。わかるものはしょうがないと思うのだが…
「すみません、警部。ですが、やはり神隠しなのですね!?」
この時、僕の目はキラキラと輝いていただろう。ようやく退屈な日々から抜け出せるかもしれないのだ。
「あ、ああ。その通りなんだが、なぜそれを…?」
「わかりました。順に説明していきましょう。なに、ちょっとした観察と簡単な推理ですよ。」
「まず、警部。一度背広を替えに戻ったなら靴も替えた方がいいですよ。あなたも知っての通り、少し泥を落としたぐらいじゃ僕の目をごまかすことはできません。跡を見るとぬかるんだところに行っていたようですね。靴底から5㎝は沈んでいる。雨は降っていなかったので多分湿地にでも行っていたのでしょう。この辺りでは見ない土ですね…。ああ、そう言えばキュウと名乗る男がこんな土をつけていたのを覚えています。イギリスではない遠いところからきたと行っていましたが…。警部、この土はどこのものですか?」
「え、ああ。西に浮かぶ小さな孤島だよ。最近になって発見された名も無き島さ。そこを買い取った富豪がいたんだが…」
警部は黙って聞いていたが質問をされると慌てて答えた。こんなことで警部が勤まるのだろうか…。
いや、一介の一般市民に助けを求めている時点でOUTか…。
「その孤島で神隠しが起きたと…?最近見つかった島なのになぜ?」
「その前に、君が神隠しの事件だとわかった理由を聞きたいのだがね…。」
そういえば説明していなかった。誰でもわかりそうなものなんだがな…
「ああ、すみません。僕がそう思ったのは手の爪に泥が入っているのを見つけたからです。僕はあなたが警部だということを知っています。まさか警部が落とした鍵を探したりしませんよね?では、何を探していたのか。それは手掛かり、詳しくは足跡ですね。靴にある泥の跡が何層にもなっているところをみると、途中までは足跡を追って動き回っていたようです。しかし、それだけでは泥がつくどころか地面に手をつけることもしないはず。それなのに泥がついているのはなぜなのでしょうか。多分、足跡が途切れてしまったからでしょう。そこで草の根を分けてまで探し回った結果、爪に泥が入った。そう考えれば自ずと答えは見えてくるものです。Finish my reasoning.何か質問はありますか?」
「なるほど、さすがだね。それで、引き受けてくれるのかい?」
「ええ、もちろんです!こんな謎を待ってたんですよ!この名探偵クォーツに任せてください!」
「すまないね。警察じゃお手上げなんだ。よろしく頼むよ。そう言えば、何か質問があったんじゃなかったかい?」
「ええ、そうです。なぜ最近見つかった島で神隠しが起きたのか。そう聞こうとしたのですが、さしずめその富豪が何人かを招待したんでしょう。消えた人はブルジョワか何かですか?」
「全て君の言った通り。と言いたいところだが、消えたのは一般の姉妹2人。その富豪を知っている人なら誰でも参加できる抽選さ。金持ちのやることは理解できないな。」
「全くです。それでその姉妹の特徴は?」
「外見の特徴は瓜二つだということぐらいかな…年は17。学年の違う双子で名前はラピスラズリ。」
「学年が違って双子なら誕生日は4月1日と2日ですね。名前はラピスさんとラズリさん?」
「当たりでもあり、はずれでもある。2人の本名はどちらもラピスラズリで、周りからはラピスとラズリで呼ばれていたそうだ。」
「なぜ、そんな名前を…」
「さぁ、両親もすでに他界しているらしいから今となってはわからないな。さて、現場にはいつ行くつもりだい?」
「そうですね…嫌な雲が近づいてきています。でも、そうすぐに降ることもないでしょう。少し腹ごしらえしませんか。いい七面鳥が手に入ったんですよ。」

―島―
「この足跡なんだが…」
島に着いた僕たちは真っ先に足跡へ急いだ。七面鳥の料理はなかなか時間がかかる。まぁ、また新しい知識を身につけたということにしておこう。
「なるほど、確かに双子の足跡ですね。歩幅、沈み具合、全てがほぼ一致しています。」
足跡を見たところ体重は45キロ前後、伸長は160もないぐらいだ。至って普通の女子高生だな。
横には警部の足跡がピッタリと張り付いている。手前の方は調べていたのだろうが、見事にグチャグチャになっていた。そろそろ警部から降格になるだろうな…
「どうしたんだい、クォーツ君?」
「え、あ、いや何でもありません。それでは奥に行ってみましょうか。」
3人分の足跡は脇道に反れることなく真っ直ぐに奥へと続いている。しかも、深さが均一なのをみると立ち止まることもしていないようだ。
少し、歩きながら考えてみよう。普通、2人の女子高生がぬかるんだ道をただ黙々と歩き続けるのだろうか?
答えはNOだ。まずありえないだろう。それに2人だけで島の奥に行く理由がわからない。
『まるで、操られているようだな…』
そう思ってから苦笑した。探偵が何、非現実的なことを考えているんだ。催眠術なんてものがあったらこの世は完全犯罪だらけじゃないか。
それにもうひとつ気になることがある。
3人分の足跡の他に、あるはずの足跡が見つからないことだ。このことから1つの推理が成り立つのだが…果たして合っているのだろうか。いや、[ありえないものをひとつひとつ消していけば、残ったものがどんなにありそうなことでなくても真実であるはずだ]と敬愛するシャーロック・ホームズも言っている。とするとやはり…
ふいに横から名前を呼ばれた。
「クォーツ君、どうしたんだい?さっきから笑ったり難しい顔をしたり…。さぁ着いた、ここが神隠しの起きた島の中心地だ。」
見てみると、なるほどきれいに足跡が途切れている。もちろんグチャグチャで、判別するのに苦労したが…
「どうだい、クォーツ君?何か分かったことはあるかい?」
「そうですね、深さや両足を揃えていることから一度ここで立ち止まったようです。それから一歩も動いていない。なのに実体は存在していない…まるで異次元や異空間に飛ばされたようですね。」
「異次元や異空間…?」
「もちろん冗談ですが。2人はおそらく猫背でしょう。爪先の方が通常より少し深く沈んでいます。今はまだデータ不足ではっきりとしたことはわかりませんが、本格的な検証を行えば明らかになることも多いでしょう。」
「本当かい?それじゃ早速…」
「ですが、検証を始める前にもうひとつ解かなければならない謎があるようです。」
「もうひとつの謎…?それは一体…」
僕は警部に向き直り口を開いた。
「…あなたは誰ですか?」

あとがき
はい、やっとこさ載せることができました!
今回は上巻を書いたわけですが、下巻はいつになることやら…((え
さて、最後のクォーツのセリフ「…あなたはだれですか?」ここで切りたかった!((殴
思い通りにいけてよかったです。次回が気になるようにできたかな…?
あ、これは2月のストコンのものです。
クロカギの充電器は大丈夫だろうか…。2週間で直るらしいけど…
少しでも早い復活を祈ってます!((誰に言ってるw

P.S
そういえば、ここでの謎1回しか出してない…((滝汗